日本を代表するコンパクトカー日産マーチ。1982年からスタートしたマーチの歴史は現在も脈々と受け継がれています。コンパクトなサイズに4人が乗車できるパッケージは国内のみならず海外からも評価が高くコストパフォーマンスに優れているコンパクトカーです。海外ではマーチではなくマイクラの名で販売されています。1992年に2代目へフルモデルチェンジ、初代の折り紙のような折り目のついたデザインから角のとれた丸みのあるデザインへ一新しました。可愛らしいルックスとマーチというネーミングが見事に噛み合い瞬く間にヒット。
そんな2代目マーチのモデル後半に追加されたカブリオレは4シーターのパッケージを維持しながら2ドア化、独立トランクルームを持つ電動ソフトトップを採用、リアウィンドウにガラスを使用するなど小さいボディに贅沢な装備を盛り込んだミニマムカブリオレとして1997年にマーチのバリエーションに加わりました。今回は日産が作り出したコンパクト2ドア4シーターオープンカーマーチカブリオレについて詳しく掘り下げていきます。
マーチカブリオレの実力
1997年販売当時、コンパクトセグメントのカブリオレとしてはいくつもの贅沢な装備がマーチカブリオレには与えられていました。ここではマーチカブリオレが誕生した経緯や隠れた実力を見直してみましょう。
〈マーチカブリオレ市販化までの経緯〉
今回紹介するマーチカブリオレはマーチ2代目に設定されたオープンモデルです。2代目マーチは1992年に登場。丸みを帯びたデザインが特徴で愛嬌のあるエクステリアと機能性・居住性・快適性をコンパクトなボディで実現したパッケージによって他の国産コンパクトカーとは一線を画した存在でした。実用性の高いパッケージングに加え欧州車とも対等に戦えるほどの性能を身につけた2代目マーチは日本市場のみならず欧州市場もターゲットにしていた国際戦略車。販売開始後、日本でも欧州でも販売台数を伸ばしヒットしたコンパクトカーとなり国際戦略を成功させました。その結果、日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞。さらに日本車として初めて欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するという快挙を成し遂げました。2代目マーチ販売開始から3年後の1995年、東京モーターショーにマーチカブリオレを参考出品すると大きな反響があり市販化の要望を受け2年後の1997年ついにマーチカブリオレが市販されました。
〈要望に応え市販化されたマーチカブリオレ〉
1997年に登場したマーチカブリオレは全長3,720mm全幅1,585mm全高1,430mmとBセグメントのカテゴリーに属するコンパクトカブリオレです。ベースとなったのは2代目マーチの3ドアハッチバックでルーフを取り払いオープンボディ化、万が一のときに乗員を守るロールバーを備えたカブリオレ。淡い茶色のタン色ソフトトップにガラス製リアスクリーン、電動ソフトトップを採用するなどコンパクトカブリオレとしては豪華な装備が与えられています。電動ソフトトップの開閉時間は10秒以内で信号待ちなどのわずかな間に開閉できる早さです。搭載されるエンジンは直列4気筒1.3Lエンジン、組み合わされるトランスミッションは5速MTもしくはCVTで前輪を駆動させます。スペックからするとスペシャリティカブリオレやハイスペックオープンスポーツカーではないためドライバビリティが高く颯爽と駆け抜けるモデルではありません。インテリアの質感などもラグジュアリーで豪勢な装備が与えられているカブリオレではありません。
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しかしマーチというコンパクトカーの乗りやすさや運転のしやすさはそのままにオープンエアを気負いせず気軽に楽しめるのはマーチカブリオレならではの魅力といえるでしょう。ユーティリティ面では4人が乗れる室内空間、独立したトランクルームを持っているため日常生活から休日のドライブまで幅広く対応することができます。これほどまでに手軽な大きさのクルマで実用性が高いオープンカーはなかなかありません。今の時代、コンパクトカブリオレは欧州車を中心に日本市場でも一定の人気があります。マーチカブリオレが登場した当時はまだオープンカーに対する意識、軽自動車をひとまわり大きくしただけに見えるコンパクトカーの需要、ましてやコンパクトなカブリオレに当時の新車販売価格1,698,000円~というプライスは高いと感じる人が多く販売開始から1年ちょっとでラインナップから消えてしまいました。今考えてみると2,000,000円未満の4シーターオープンカーマーチカブリオレはコストパフォーマンスに優れたモデルです。時代を先取りしすぎたオープンカーがマーチカブリオレだったのかもしれません。
気軽に楽しめるチャンス
今となって改めてマーチカブリオレを見直してみると魅力的な部分が多くあります。手軽さや気軽さ、気負いせず運転することができてオープンエアも楽しめるという点ではマーチカブリオレはちょうどいい存在だったのです。では気兼ねなくオープンドライブを楽しめるマーチカブリオレはまだ現存するのでしょうか。中古車情報を見てみるとわずかながら現存する個体が残っています。車両価格は15万円~60万円程度、個体によっては幌張り替え済みの個体もあります。現在では2代目マーチすら見かけることが少なくなり、マーチカブリオレとなるとさらに希少な存在です。貴重なマーチカブリオレに乗るとしたらオープンエアを存分に楽しむことができるCVT搭載モデルがオススメ。
前オーナーによってカスタマイズされた車両、修復歴の有無など個体差があるため写真や情報をしっかりと確かめた上で最終決断をする必要があります。マーチカブリオレは電動ソフトトップを採用しています。そのため幌の状態、劣化具合、動作確認などのチェックもお忘れなく。コンパクトでありながらガラス製リアスクリーンや電動開閉機構など上級カブリオレ並みの装備が与えられているマーチカブリオレを手に入れるのであれば現存する個体だけであるため残りわずかということになります。今後は個体数が減っていく一方なので気軽にオープンエアを楽しむことができる国産コンパクトカブリオレに乗ることができるチャンスは今しかないといえるでしょう。
〈オススメ車両のポイント〉
・CVT搭載モデル
・修復歴の有無や車両の状態
・特に幌の状態(シワ、へたり具合、雨で濡れても問題ないかなど)は要チェック
もし今マーチカブリオレがあったら
コンパクトカー、ミニバン、SUVが乗用車所有率の上位を占める日本の自動車マーケット。もしも今マーチカブリオレが販売されていたらヒットしていたかもしれません。その理由は、コンパクトながら4シーターを備え、独立したトランクルームを持ち、必要最低限の割りきった装備だけのインテリア、純粋にハンドルを握る楽しさや喜びを再確認することができ、風を感じられるオープンカーならではの世界は現代の国産自動車が忘れかけている価値観なのかもしれません。
カテゴリーは異なりますがホンダS660やマツダロードスターやダイハツコペンなど2ドア2シーターと割りきったカテゴリーのオープンカーが再度盛り上がりを見せていることを踏まえると2ドア4シーターコンパクトカブリオレは実用的で日常使いもできるユーティリティの高いオープンカーです。自然の風を肌で感じられ爽快感を体感できるコンパクトオープンカーは現在の日本市場では欧州車など輸入車の独壇場。忘れかけている開放的なドライブを思い出させてくれて普段使いもできる国産4シーターコンパクトオープンカーの復活を期待したいですね。
[ライター/齊藤 優太]